総務人事労務の皆様、いつもお世話になっております。
今日は、ある社員さんのお話です(一部変えてあります)。
営業職(非管理職)の社員さん。お客さんから大型案件を受注し客先の希望を社内チームに伝えていいものを作り上げようと頑張っていましたが、会社の中で組織改編があり、新しいメンバーとその気持ちが共有できない状態になってしまいました。「そこまでしなくてもいいんじゃない」「お客さんにいい顔しようとして」などとも言われてしまいました。なんとか社内チームにも客先の意向を伝えようと努力しましたが、なかなか受け入れてもらえなかったのです。社内チームがこれでいいという商品を納品した結果、お客様から「希望のものと全然違う」とかつてないクレームを受けてしまいました。
さて、ここまでくると社長も出て客先にお詫びにいったりということがあったとのことなのですが、部長は主体的に動かず、クレーム対応も事後処理も、その社員さんの仕事として任せていました。部長から命じられた経過報告書を自分で作成する中で、自分の思いが社内に伝わらず社内チームから受けていたつらい言葉なども思いだす作業に心が疲れ、あるとき「やらなければいけないのはわかっているのに体が動かない」状況に陥ってしまいました。
この時点で、別部署の管理職の方から、産業医と話してみてはという相談があったのです。
ここまでくれば「ポキッ」となにかが折れてしまうまで時間次第という状況です。客先と社内チームの間で板挟み状態になってしまったこと、自分なりに頑張ったのにトラブルが発生してしまったこと、トラブルに対し直属上司が自分ごととして対応してくれないこと、つらいですね。
ここで、奇跡的なことが起こりました。なんでしょうか。
残念ながら産業医の面談ではありません。
そのトラブル発生後に異動してきた本部長が、部下全員のヒアリングを始めたのです。
その社員さんの時もじっくりと時間をとって聞いてくれました。
社内チームにも上司にもこれまで伝わらなかった思いを受け止め、共感し、トラブルの事後処理もすべて背負い込んでいることには「そんなのは、部長がヒアリングしてまとめればいい」とも言ってくれました。そのうえ、「この際なんでもいいから思っていることを言っていいよ」との言葉をかけてくれたので、「いいんですか、、なら、、」と「実は営業職はもともと向いていないんです。研究や解析が主体の仕事で採用されたけど諸事情で営業職になってしまったのです」と言えたそうです。
そして、なんと1月も経たないうちに非営業職に異動となりました。
私が産業医面談でお会いしたのは異動後でした。落ち着いた表情で上記経過をお話いただきました。「多忙な部署で残業時間は増えましたけど、自分のペースで仕事ができますし前より落ち着いています」と語ってくれました。
営業職は向いていないと思うと前の部長に伝えたこともあったけれど「そんなことないよ、もう少しやってみれば慣れてくるよ」といなされてしまったそうです。
面談は笑顔も多く終了いたしました。
本当に、人事とは重要なものだと感じさせられました。
今回のケースは、いろいろ示唆に富む事例でした。会社の雰囲気というのはなかなか一朝一夕には変わらないものですが、外から来た方がいい風を吹き込むことは時にあります。ずっと中にいる方には見えない部分が見えるのでしょう。
この方の場合は、本部長のヒアリングということがあり、いい結果となりましたが、ご本人曰く一番つらい時期には「最悪のことも考えた」との言葉もあり、本部長の動きがなければ、最悪の結果が現実となっていた可能性も否定できません。または長期療養、という結果になっていたかもしれません。
社員さんがたくさんの業務を抱えている場合、すぐに産業医面談日時の調整がつかないこともあります。助けが必要な状態になっても、一見普通に働いている方も多いのです。
急に休んでしまう、などのわかりやすい勤怠変化で気づく前に、メールの返信が遅くなった、なんか前と違う、など周りの方が「前と違う」と感じることがサインだったりもします。そんなサインの情報があった場合、社内のしかるべき方が話を聞く時間をしっかり作っていただく、こともとても大事です。会社の規模等により誰が聞けばいいのかは違ってきます。
産業医が定期的に訪問している事業所であれば、社員の面談・相談にも産業医は応じるものですので積極的に産業医に面談依頼をかけていただければと思います。
療養が必要なまでになってしまう前に、気が付いて、適切な対応することが従業員の健康のためにも会社のためにもいい結果となります。社員が健康であってこそ会社も元気になります。
2020/10/24 産業医とねりこ記